映画「アメリカン・ビューティー」(1999) 中年男性が陥る落とし穴

アメリカン・ビューティーの本の表紙 映画レビュー

映画「アメリカン・ビューティー」(1999) wikipedia

サム・メンデス監督が語る映画「アメリカン・ビューティー」(1999)の多面性

 アメリカン・ビューティーには真剣な場面、笑いがある場面、恋愛、サスペンスなど様々な側面がある。
 サム・メンデス監督自身も本作について「アメリカの郊外を万華鏡的に見せてくれる」と語っている。

 観客の属性(性別・年齢・国籍など)によって、誰に感情移入するかが変わるだろうし、それにより視聴後の印象も大きく変わってくると思う。

主人公レスター・バーナム(ケヴィン・スペイシー)

 主人公のレスター・バーナム(ケヴィン・スペイシー)の登場シーンは衝撃的だ。
 レスターは登場してすぐにバスルームへ移動しマスターベーションをする。妻とセックスすることがなくなり、独りで処理する「中年弱者男性のレスター」という人間像が短いシーンでうまく説明されている。また、ストーリーの方向性もここで示されている。

主人公の娘、ジェーン・バーナムと友人のリッキー・フィッツ

 冒頭でジェーン・バーナム(ソーラ・バーチ)は友人のリッキー・フィッツ(ウェス・ベントリー)と話している。内容は父のレスターが自分の友人に欲情しているということだ。思春期の女子特有の父親嫌いから生じた妄想と思いきや、後の描写で本当にレスターがいやらしい目で娘の友人を見ていることが分かる。
 冒頭のレスターは嫌らしくて汚らわしいオヤジだ。

娘の友人に恋をするレスター・バーナム

 チアリーダーの娘・ジェーンには承認欲求の強い友人アンジェラ・ヘイズ(ミーナ・スヴァーリ)がいる。ある晩、レスターと妻はバスケの試合の前座にチアリーダーとして登場するジェーンを見に行く。
 そこでレスターは、ジェーンと共に登場するアンジェラに出会い恋に落ちる。レスターも「20年意識を失っていて、目覚めてゆく感じ」と語っている。娘の友人を女として意識してしまう気持ち悪いオヤジの誕生シーンである。
 ここが前半の転換点となり、ストーリーが展開してゆく。

 アンジェラはレスターのイメージの中でもたびたび登場し、裸でダンスをしていたり、バラの海に埋もれていたり、レスターを欲情させる人物として機能している。アンジェラはレスターに、失われた青春を思い出させてくれる機会を与えている。
 ちなみに、映画のタイトルのアメリカン・ビューティーはバラの品種であり、これらのイメージシーンに登場するバラと掛けているようだ。

死を「美」と語る不思議な青年リッキー

 ジェーンの友人(ボーイフレンド)として登場するリッキーはたびたび不思議なことを言う。特に印象的なのはかつてリッキーが見た「死んだホームレスの女」を語るシーンだ。
 リッキーはジェーンに悲しい表情をした「死んだホームレスの女」を録画したと語る。ジェーンはどうして撮ったのか尋ねると、リッキーは「感動したから」と返し、「ほんの一瞬、神に見られているという視線を感じ見返した」と言う。ジェーンが再び何が見えたかと尋ねると、リッキーは「美」と返す。

 ストーリーに深みを与えている印象的なシーンだった。

救われなかったが幸せに散ったレスター

 かつての若い頃のレスターは、結婚前にその後の妻とデートしたり、結婚して家族ができたら皆で遊園地へ出かけて楽しんだり、人生を謳歌していた。気付かないうちに歳を取り、娘のジェーンに嫌われ、妻にも不倫され、仕事はクビになり、レスターには重い出来事ばかりがのし掛かった。若い頃には想像しなかった中年時代、それも「こんなはずじゃなかった」と思うような人生を送るレスターに同情する。それでもレスターは、最後には自分の人生を肯定し、自分が幸せであることに気付く。だが、そんな最中に殺されてしまう。

 1999年(公開年)に42歳になったレスターと似たような体験をしているお父さんは2024年の日本にも沢山いそうだ。テーマの普遍性を感じる映画だった。

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